1400年の歴史と379段の挑戦──地域ブランディングのリアル
こんにちは、ステップアウトマーケティング代表の今宿裕昭です。
2020年に博報堂を早期退職して滋賀県東近江市へ移住してから、僕は「地域に眠る魅力をどう物語として立ち上げるか」というテーマに向き合ってきました。
移住した先には、先祖が残してくれた土地やお墓、古民家があり、子どもの頃から何度も訪れてきた"帰ってくる場所"がありました。その中心にあったのが、太郎坊宮(阿賀神社)です。
ただ、そんな僕にとって特別な場所であっても、「この神社でPRをする」という発想は最初からあったわけではありません。
ある日の何気ない会話がきっかけで、この場所が「挑戦」という価値と深くつながることに気づくまで、太郎坊宮はあくまで"子どもの頃の思い出の場所"でした。
太郎坊宮との再会──地域資源は「足元」に眠っている
赤神山の中腹に鎮座し、1400年という気の遠くなるような年月を重ねてきた太郎坊宮には、参道に742段の石段が続いています。
ただし、太郎坊チャレンジで使用しているのは、運営動線と安全性を考慮した379段のコースです。
それでも、この379段が持つ"体験価値"は圧倒的でした。
階段を登るという単純な行為なのに、なぜか心が揺さぶられる。
その瞬間、僕の中で博報堂時代に使い続けてきたブランディングのフレームが自然と動き出しました。
- 唯一性:ここにしかない石段
- 体験価値:登る行為そのものが物語になる
- 歴史と現在の交差:1400年の歴史と今の挑戦
- 拡散性:写真と動画で圧倒的に映える場所
「これはきっと、スポーツイベントの舞台になる。」
そんな直感のような確信が、太郎坊チャレンジの始まりでした。
ゼロからの立ち上げ──博報堂流ブランディングを地域で応用する
博報堂で29年間、ユーキャン、ENEOS、スズキなど多くのブランドに関わってきました。
しかし"地域ブランディング"の現場は、企業とはまったく構造が違います。
企業ブランディングと地域ブランディングの違い
| 項目 | 企業 | 地域 |
|---|---|---|
| 意思決定 | トップダウン | 多様な主体の合意形成 |
| 関係者 | 明確 | 行政・住民・神社・企業 |
| 予算 | 比較的潤沢 | 少ない |
| 進め方 | 期限が明確 | 長期的積み上げ |
それでも、僕が大切にしている"本質"は変わりません。
- 独自の価値を見つける
- 届ける相手を決める
- ストーリーをつくる
- 一貫したかたちで伝える
太郎坊チャレンジも、この原則をひとつずつ積み上げていきました。
太郎坊チャレンジの戦略──4つの骨格
■ ポイント1:唯一無二のポジショニング
太郎坊宮の石段は、他の階段イベントには存在しない"聖地性"を持っています。
- 379段の挑戦性(全742段の中の競技区間)
- 神聖な参道
- 絶景ポイント
- 関西圏からのアクセス性
これらを束ね、「聖地で自分に挑戦する」というポジションを設計しました。
■ ポイント2:ターゲットを絞る
地域イベントはよく「誰でも参加できるイベントに」と考えがちですが、
それではブランドは強くなりません。
- コア層:健康志向の30〜50代ランナー
- サブ層:地域の親子
- 潜在層:関西圏のアウトドア層
絞ることで"尖る"。
それがブランドを強くします。
■ ポイント3:多層的なストーリー
太郎坊チャレンジは、複数の物語が重なっています。
- 個人の挑戦
- 地域の歴史
- こども未来チケット(次世代支援)
- 都市と地域の新しい関係
特に「こども未来チケット」は、近江商人の"三方よし"の精神を現代に翻訳した象徴的な施策です。
コピー誕生の裏側──AIとの共創
ブランドの象徴として生まれたメインコピー、
『歴史を駆け抜け、未来を掴め!』
これは生成AIとの対話を続ける中で立ち上がった言葉でした。
価値を"一行に翻訳する"という僕自身の原点と、
太郎坊宮の歴史、挑戦者の未来、地域への思いが重なり、
AIとの共創で生まれた強いメッセージです。
関係人口の創出──地域に人が戻ってくる仕組みをつくる
太郎坊チャレンジでは「一度きりのイベント」にしないための仕掛けを作りました。
- モニターツアー
- SNSコミュニティ
- リピーター施策
- 宿泊・飲食との連携
結果として、参加者の54%が県外、リピート率は30%以上。
地域と外の世界がつながる導線が形になってきました。
スポーツ庁採択──"物語を描く力"が評価された瞬間
2025年、ステップアウトマーケティングとしてスポーツ庁の事業に応募しました。
提出資料をAIと共に磨き続け、ストーリー・戦略・データを一本の線にした結果、採択に至りました。
「地域の挑戦が国に届いた」
そう実感できた瞬間です。
地域ブランディングの本質──"らしさ"を磨く
近江商人博物館のミュージアムガイドを続ける中で、「三方よし」は地域ブランディングの核心だと感じています。
太郎坊チャレンジはその実践であり、
地域よし・参加者よし・社会よし
三つが揃ったとき、初めて持続可能なブランドになります。
TBWA博報堂で培った「ゼロから創る力」
TBWA博報堂の立ち上げ、スターバックスやBOSEのブランド構築に携わった経験から、
- ゼロから構築する力
- グローバル基準の発想
- 一貫性の設計
これらは、太郎坊チャレンジを形にする上で大きな力になりました。
CHANGEをCHANCEへ──地域にこそ"戦略"が必要だ
"戦略とはムダな戦いを省略すること"。
地域活性化も同じです。
- 手当たり次第にやらない
- 強みを見つけ
- 磨き
- 物語として届ける
移住もまた、コロナ禍というCHANGEをCHANCEに変えた結果でした。
まとめ──地域には必ず"宝"がある
どんな地域にも、必ず価値の原石が眠っています。
それを掘り起こし、磨き、伝えることがブランディングの本質です。
太郎坊チャレンジは、その実践であり、これからもっと磨いていきます。
「東近江といえば太郎坊宮」
そう胸を張って言える未来をつくるために。
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ステップアウトマーケティング合同会社
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