こんにちは、ステップアウトマーケティング代表の今宿裕昭です。
毎朝、僕は動画を一本作っています
僕は毎朝、note記事とミュージックビデオ(MV)を1本ずつ、AIで自作しています。画像生成、テロップ、音楽生成(Suno)、編集まで、全部ひとりで。62歳でコードもろくに書けない人間が、です。
最初は半信半疑でした。「AIで作った動画なんて、しょせんお遊びだろう」と。ところが続けているうちに、自分の手元で「映像が出来上がっていく」感覚に、正直、こちらが揺さぶられました。かつて博報堂にいた頃、一本のCMを作るのに何十人もが動き、何週間もかけ、何百万円・何千万円という見積もりが飛び交っていた。あの世界を29年見てきた人間からすると、これは何かが根本からずれている、という感覚なのです。
決定打になったのは、少し前にX(旧Twitter)で流れてきた、あのスラムダンクの「ai実写化」動画でした。韓国のクリエイター Fantasoner(판타소너)さんが、画像生成のMidjourneyと動画生成のKlingを使い、個人で作り上げた映像。桜木花道が、まるで実写映画のように動いている。チャンネル登録者は7万人を超えています。
正直、やられた、と思いました。広告屋のサガで、つい「これ、どうやって作ってるんだ」と分解してしまうのですが、分解すればするほど分かるのは、これは「個人が映画級の映像を作れる」という象徴だということです。
そして、ここからが僕の本題です。これは映像オタクの感想で終わる話ではない。経営の話です。なぜなら、同じ技術が、中小企業の「動画広告のコスト構造」を丸ごと変えにきているからです。
(スラムダンク実写化そのものについては、以前 別の記事 で「個人が映画級の映像を作れる時代に経営者は何をすべきか」を書きました。今回はその続きとして、お金と法律の話に踏み込みます。)
中小企業の動画制作費用は、なぜ『30万〜100万円』が当たり前だったのか
そもそも、なぜ動画は高かったのか。広告屋の視点で、コストを一度バラしてみます。
中小企業向けの動画制作の相場を調べると、だいたいこうなっています。
- 会社紹介動画:撮影なしのスライド構成で10〜30万円、1日撮影が入ると30〜80万円、社員や現場に密着すると80〜200万円
- 商品・サービス紹介動画:おおむね30万〜100万円
横断的に見ると、「動画1本=30万〜100万円」が日本の相場感です(参考:映像幹事、NTT東日本のコラム)。
なぜこの値段になるのか。理由はシンプルで、動画は「人が大勢動く」からです。企画する人、絵コンテを描く人、撮影するカメラマン、照明、出演者、編集者、ナレーター。さらに撮影機材、スタジオ、ロケ地の手配。要するに、動画のコストの正体は「人件費と段取り費」なんですね。
そして決定的なのは、これが「1本いくら」の都度払いだということです。一本撮ったら、次の一本でまた同じだけかかる。だから中小企業は「ここぞ」という会社紹介動画を1本だけ作って、あとは何年も使い回す。SNSの時代に「毎月、何本も」出したくても、予算がそれを許さなかった。
ここが、これまでの構造の急所です。
AIで、動画広告のコスト構造はどう変わったのか
では、AIで何が変わったか。一言でいうと、「1本いくら」が「月額で何本でも」になったことです。
いま中小企業が現実的に使えるAI動画生成ツールを並べると、こうなります(2026年6月時点)。
- Google Veo(Google AI Proで月19.99ドルなど)
- Runway(Standard 月12ドル/Pro 月28ドル:料金ページ)
- Kling AI(月10ドル/37ドルあたり ※二次情報)
- Pika(月8ドル/28ドル:料金ページ)
- Luma Dream Machine
いずれも無料枠があり、有料でも月額数千円〜1万円台で使えます。しかも、契約している間は基本的に「何本でも」試せる。先ほどの外注の相場と並べてみてください。
外注:動画1本あたり 30万〜100万円(都度払い)
AIツール:月額 数千円〜1万円台(+自社の人件費)で、何本でも
桁が、変わっています。
もちろん、ここに揺らぎを正直に書いておきます。AIツール代がゼロ円ではないのと同じで、「制作費がタダになる」わけではありません。AIに指示を出し、何度も生成し直し、使えるカットを選び、テロップを付け、ブランドに合うか確認する──この社内の人件費(手間)は残ります。僕自身、毎朝の一本でも「思った絵が出ない」「何回も生成し直す」のは日常茶飯事です。それでも、人を大勢動かす段取り費がごっそり消えるインパクトは、本物です。
そしてもう一つ、正直に言っておかねばならない論点があります。特定のツールに依存するリスクです。
象徴的なのがOpenAIの「Sora」です。鳴り物入りで登場しましたが、Sora専用アプリは2026年4月26日に終了し、Sora 2 APIも2026年9月24日に終了が予定されています(参考)。つまり、いま「これだ」と一社に深く張り込んでも、来年そのツールが消えているかもしれない。だから僕はSoraを「今の現実解」としては数えていません。今すぐ使うなら Veo / Runway / Kling / Pika、というのが正直なところです。
ここから引き出せる経営の教訓は、「どのツールが勝つか当てにいかない」ことです。ツールは乗り換えればいい。本当に社内に残すべきは、どのツールでも通用する企画力と編集力のほうなんですね。
実際、企業はどう使っているのか
理屈だけでは腹落ちしないので、実例を見ます。成功と、反面教師を並べておきます。
伊藤園──日本初のAIタレントをCMに
国内で決定的だったのが、伊藤園の「お〜いお茶 カテキン緑茶」のTVCMです。生成AIで作ったAIタレントを起用し、白髪の女性が若い女性に切り替わる表現を実現しました。これは日本初のAIタレントによるTVCMで、2023年9月から放映されています(AIタレントの制作はAI model株式会社/日経の記事)。さらにCM「未来を変えるのは、今。」篇は、VFX-JAPANアワード2024の先導的視覚効果部門で優秀賞を受賞しています(受賞リリース)。
大事なのは、これが「安いから」ではなく「AIでしか描けない表現だから」採用されている点です。コスト削減の話に矮小化していない。
トヨタ──歴代モデルをAIモーフィングで
トヨタも2025年10月、新型ハイブリッド3モデル(AYGO・C-HR・RAV4)の歴代世代がAIモーフィングで変化していくCMを、生成AIで短期間に制作しています(制作Loto Studios/プロジェクトページ)。「過去から現在への変化」という、人手では膨大な工数になる表現を、AIの得意技で短期に仕上げた例です。
コカ・コーラ──質を犠牲にすると、こうなる
そして反面教師。コカ・コーラは2024年のクリスマス広告を生成AIで制作したところ、「soulless(魂がない)」と批判が殺到しました(NBC Newsの報道)。さらに2025年版も再び炎上しています(Euronewsの報道)。
この一件が突きつけているのは、はっきりしています。「コストと時間を優先して、質を犠牲にした」と受け取られた瞬間、AIはブランドを傷つけるということです。安く・速く作れることと、出していいものかは、別の問いなのです。
『ai実写化』に飛びつく前に──中小企業が知っておくべき法的な線引き
ここが、今回いちばん書きたかったところです。スラムダンクのような「ai実写化」は確かに胸が躍ります。でも、真似して自社の広告に使う前に、知っておかないと危ない線があります。
原則をまず一つ。「AIを使うこと自体が違法なのではない。使い方次第で、既存の法律に抵触しやすくなる」ということです(SBクリエイティブの解説、法務プロの解説)。
具体的には、こういう使い方が危険です。
- 既存のアニメキャラクターや作品を参照して、よく似た生成物を作り、商品化・プロモーションに使う → 翻案権・複製権の侵害になりうる
- 声優や俳優の声を模倣して使う → 実演家の権利・パブリシティ権の侵害リスク
スラムダンクのあの動画が話題になる一方で、法的にはグレーな領域だ、ということは押さえておくべきです(前回の記事ではこの法的側面に触れていなかったので、ここで補っておきます)。誰かの作ったキャラクターや顔・声を、許諾なしにAIで再現して商売に使うのは、グレーからアウトに片足を突っ込んでいます。
では、中小企業はどこに立てば安全か。答えはシンプルです。
自社オリジナルの素材を、AIで増幅する。
自社で撮った商品写真、自社の社屋、自社のスタッフ、自社の言葉。これらを起点にして、AIで動かしたり、世界観を足したりする。他人のIP・実在の人物・声を借りない。この一線を守れば、AIは安全に、しかも強力な武器になります。逆に言えば、「あの有名キャラで作ってみよう」が、いちばん危ない入口です。
中小企業は、何から始めればいいか
最後に、持ち帰れる「型」として、現実的なワークフローを置いておきます。僕が毎朝やっていることの、業務版だと思ってください。
- スマホで撮影(0円)──自社の商品・現場・人。素材はここから
- 画像生成(Midjourney、Adobe Firefly など)──素材を補強したり、世界観のカットを足す
- 動画生成(Veo / Runway / Kling / Pika)──静止画や指示から動画を生成
- AIナレーション・字幕(ElevenLabs など)──ナレーションや字幕を付ける
- 編集(CapCut は0円、Canva Pro は月1,500円程度)──つなぎ、テロップ、仕上げ
参考までに、AIを使った中小企業の動画内製についてはこうした解説もあります。
そして、ここでも揺らぎを正直に書きます。この型は、すんなり完璧には回りません。
- クオリティの限界:思った構図が出ない、手の指が変、動きがぬるっとする。生成し直しの回数は覚悟がいります
- 「AIっぽさ」:のっぺりした質感や不自然な動きは、見る人に「あ、AIだな」と伝わります。コカ・コーラの「soulless」は他人事ではありません
- ブランド毀損のリスク:安さに目がくらんで雑に量産すると、かえって会社の印象を落とします
だから僕のおすすめは、いきなり本番のCMをAIに任せないことです。まずは無料枠で、社内用のテスト動画や、SNSの短い投稿動画あたりから始める。そこで「自社の用途に、いまのAIのクオリティが見合うか」を、自分の目で確かめる。その判断を社内に持つことのほうが、どのツールを契約するかより、ずっと大事です。
ちなみに、僕がどうやって毎朝note記事とMVを一人で回しているかは、全工程をこちらの記事に書きました。「一人でここまでできる」の実物として、見てもらえればと思います。
おわりに
正直に言うと、僕はAIで毎朝映像を作りながら、いまだに「これでいいのか」と揺れています。便利さに浮かれて、魂のない量産に走っていないか。手で作る人たちへの敬意を忘れていないか。
それでも一つだけ確信しているのは、予算がないから動画は無理、という言い訳は、もう成り立たないということです。コストの壁は、確かに崩れました。あとは、何を・誰に・なぜ伝えるか。結局それは、AIではなく、経営者自身が決めることです。道具はもう、手の届くところにあります。
引用元・参考リンク
- 動画制作の相場:映像幹事 / NTT東日本コラム
- 中小企業のAI動画内製:BGMNOWブログ
- Runway 料金:runwayml.com/pricing / Pika 料金:pika.art/pricing
- Sora の終了:Wikipedia: Sora (text-to-video model)
- 伊藤園のAIタレントCM:日本経済新聞 / 受賞:PR TIMES
- トヨタのAI CM:Loto Studios
- コカ・コーラ広告の炎上:NBC News(2024年版) / Euronews(2025年版)
- AI動画の法的論点:SBクリエイティブ / 法務プロ
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