生成AI活用

社内AIが使われないのは、リテラシーの問題ではなかった──支援者と現場の「環境の非対称」

AIを入れたのに使われない。その原因は社員のリテラシーややる気ではなく、支援する側と現場の「環境の非対称」にあることが多い。実際に走り出したAI伴走支援を題材に、この差をどう潰すかを公開します。

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今宿 裕昭

今宿 裕昭

ステップアウトマーケティング合同会社 代表|元博報堂 29年

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こんにちは、ステップアウトマーケティング合同会社 代表の今宿裕昭です。

AI伴走支援の最初の3ヶ月でやるべきことは、研修でも全社展開でもありません。週1回・1部門から1名・1時間の個別相談を積み上げながら、支援者と現場で使える機能の差を先に潰すことです。

正直に言うと、僕がこの仕事で一番こわいと思っているのは、社員さんが「AIって、やっぱり使えないですね」と言って静かに離れていく瞬間です。

8月下旬、ある企業とオンラインで戦略会議をしました。社内のAI活用プロジェクトを、これからどう回していくかを決める会議です。そこで出てきた一番大きな論点が、まさにそれでした。

この記事は成果報告ではありません。走り出したばかりの案件なので、書けるのは、3ヶ月をどう設計したかと、走り出す前に何が見えたかまでです。


なぜ、入れたのに使われないのか?

僕が注目したのは、導入率の低さではありません。「入れたのに、一部の人しか使っていない」という状態の多さです。

商工中金が取引先の中小企業3,892社に聞いた「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」(2026年1月調査/同年3月31日公表)で最多だったのは、「会社導入なし、使用は個人の判断に任せる」の64.9%でした。全社的にパッケージ導入は4.1%、一部部署・メンバーで導入が11.2%。多くの会社で、AIは「個人の持ち物」のままです。

この調査は、課題を層別に分けています。積極活用層(n=1,144)とそれ以外(n=2,522)で、悩みの中身が入れ替わります。

積極活用層以外(会社としては導入せず、個人任せにしている層を含みます)の悩みは「具体的な活用場面が不明」42.0%、「自社業務になじまない」29.5%。ところが積極活用層になると、「一部の部署や職員に知識やノウハウが偏り、社内全体に広がらない」が24.7%(それ以外は10.2%)、「業務プロセスにうまく組み込めず、利用が定着しない」が16.3%(同10.0%)と、逆に高くなります。

使い始めた会社は、使い始めたことで新しい壁にぶつかる。

総務省の令和8年版 情報通信白書も、同じ構造を書いています。「汎用的なAIツールが導入されても一部の積極的な社員が活用するのみで、全社的な活用と効果創出に至らない可能性もある」。先進企業は環境整備で終わらせず、活用ユースケースの収集や社内展開、定期的なワークショップ開催といった促進策で浸透を実現している、と。

同白書によれば「組織的な取組はない」と答えた割合は日本で27.0%(米国1.4%)。内訳を見ると中小企業45.6%に対し大企業18.1%で、中小企業で特に高い(出典)。なお、これは日本・米国・ドイツ・中国の企業を対象にしたネットモニター調査で、自社の戦略を把握する管理職以上が回答したものです(日本の有効回答515社)。悉皆調査ではありません。商工中金の調査とは母集団も設問も違うので、時系列や因果としては並べられません。並べられるのは「同じ形の壁が、別々の調査から見えている」ということまでです。


支援がつまずく最大の原因は、どこにあるのか?

会議で参加者から出た指摘は、こういうものでした。「今宿さんが積んでいるモデルの前提で話すと噛み合わない」「会場リサーチをディープリサーチで、と言っても、社内ツールにはその機能がない」。

社員が日常的に触っているのは社内向けのAIチャットツールです。僕が普段使っている環境とは、できることが違う。ここで僕が自分の環境を前提に答えると、助言そのものが実行不可能になります。

入っているのと使われているのが別なのと同じくらい、支援者の環境と現場の環境も別です。

これは気合いや解釈の問題ではなく、管理者設定として実在します。MicrosoftはCloud Policy の Allow web search in Copilotで、管理者がテナント単位でWeb検索をオフにできると明記しています。その設定はディープリサーチ相当の Researcher にも波及し、ユーザー側のトグルは灰色表示で自分ではオンにできません。OpenAIのChatGPT Enterpriseでも、管理者が利用可能モデルや既定の推論レベルを制御できます。

「APIではディープリサーチが使えない」というのは、誤りです。OpenAIの公式ドキュメントは、APIでも使えるが、Web検索・MCPサーバー・ファイル検索のいずれかのデータソースを開発者が接続する実装をしない限り動かない、と書いています。

つまり、自社構築のチャットに高度な機能がないのは、技術的に不可能だからではありません。実装されていないからです。ここを混同すると、「うちのツールでは無理」で話が終わってしまう。

だから今回、僕に社内アカウントを渡してもらう方針を確認しました。社員と同じ環境に降りて、同じ画面を見て答える。博報堂で29年、広告の現場にいて学んだことがあるとすれば、机上で正しい案より、現場で回る案のほうが強い、ということです。


最初の3ヶ月を、どう設計したか?

週1回、1部門から1名、1時間。僕との1on1に、実務の困りごとを持ち込んでもらう。アンケート集計のような初歩から、企画書の作成まで、レベルはピンキリで構いません。むしろピンキリのほうがいい。

5週分、つまり5人たまった時点で、そのメンバーで感想を持ち寄る共有会を開きます。個別に貯めた事例を、そこで一度、社内の言葉に翻訳し直す。これは白書が言う「ユースケースの収集と社内展開」を、うちの規模でやれる形に落としたものです。

正式なアナウンスは、週明けの管理職会議で社長から口頭で。実施順もそこで決めます。

そしてもうひとつ、社内に「ハブ役」を1人置きました。各部署がバラバラに予約を入れるのではなく、ハブ役がまとめて僕の予約システムに登録する。リスケもハブ役経由。任命の理由は明快で、別部門の責任者と経理を兼務していて、営業の実務も分かり、時間も取りやすいからです。

窓口を一本にすると、参加者名簿がそのまま進捗表になる。

誰がまだ来ていないか、どの部署が滞っているかが、集計しなくても見えます。ここを決めずに始めると、誰が参加していないのかが分からなくなります。

事前ヒアリングも変えました。当初のシートは自由記入ばかりだったので、選択式に簡素化することを僕から提案し、社長に了承いただきました。記入負担を増やした瞬間に、参加のハードルが上がります。


走り出す前に、何が見えたか?

最初の3回程度は、相談に答えることそのものより、切り分けを優先します。

その困りごとは、社内ツール起因の制約なのか。それとも、別のツールなら解決するのか。あるいは、AI以前の業務設計の問題なのか。ここを混ぜたまま進むと、「AIは使えない」という総論の誤解だけが社内に残ります。

社長がこんな比喩を使いました。「オートマ20年の人に、いきなり360ccのマニュアル車で坂道発進させるようなもの」。僕はこう返しました。

そもそも、360ccのマニュアルに乗せること自体に意味がないかもしれない。

道具に人を合わせるのではなく、その人がやりたいことに道具のほうを寄せる。切り分けとは、そういう作業です。

社長が見たい指標は利用率ではなく、使っている人の満足度でした。「質問者のやりたいことにこう答えたら、社内ツールではできませんとなるのが一番あかん」。この指標の置き方を裏づける外部データがあるわけではありません。あくまで現場の判断です。

利用状況の数字は、減っているというより季節変動の可能性があります。ただ、利用者の偏りははっきり出ていて、使う人は使い倒している。この偏りをどう均すかが、共有会の役割になります。

商工中金の調査では、経営へのプラス効果を感じている割合は、会社による導入(n=592)で36.6%、個人登録AIの利用推奨(n=534)で26.0%でした。個人任せのままだと効果実感が伸びにくい、という傾向は読み取れます。

完成を待たずに、まず始めてブラッシュアップする。今回はその前提で走り出しました。


この3ヶ月から、何を持ち帰れるか

まず、支援者と現場の環境差を書き出す。 外部のパートナーや情シスに、自社の管理者設定を確認してもらってください。Web検索は有効か。使えるモデルは何か。ファイルアップロードは通るか。ここが不明なまま研修をやると、その日のうちに「できません」が発生します。

次に、窓口を1人に決める。 兼務が多く、他部署の実務が見える人が向いています。予約もリスケもその人を通す。

そして、事前アンケートを選択式にする。 自由記入は、書き手の負担と読み手の解釈コストを同時に増やします。

最後に、事例を貯める箱を用意する。 中小機構が中小企業10,000社を対象に行った実態調査(令和7年11〜12月調査/2026年3月公表)では、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に対して不足と答えた割合が83.3%で最多でした。必要な公的支援としても、導入費用などの助成77.9%に次いで、導入事例などの情報提供が70.5%、従業員向けの教育・研修が67.7%、試行導入などの機会が61.3%、専門家の派遣や導入相談が59.8%と並びます(有効回答は約1,600社)。外から来ないなら、自社で作るしかない。1on1は、その製造ラインです。

外部の力を借りるなら、選択肢は民間だけではありません。よろず支援拠点は47都道府県にあり、相談は何度でも無料で回数上限もありません。中小機構のハンズオン支援は20回程度・数カ月から10カ月程度で、社内プロジェクトチームを編成し、派遣終了後も自立継続できる仕組みづくりを目的としています。費用は専門家1人・1日あたり1万7,500円(税込)。

補助金については、名称が変わりました。現在は「中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金(デジタル化・AI導入補助金2026)」です。公募要領のITツール定義には「ソフトウェア(AIを含む)」と明記されていますが、生成AI専用枠があるわけではありません。通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠の直近の締切(5次締切分)は2026/09/29(火)17:00です(事業スケジュール。6次以降の日程は順次公表)。

そして白書が示す効果創出のステップは、順番が大事です。まず安価な汎用AIを個人作業に浸透させる。その上で、業務プロセスをAI前提に変革する(出典)。逆順にすると、たいてい止まります。


おわりに

この案件は、まだ何の成果も出ていません。管理職会議での説明が終わって、これから1人目の1on1が始まる段階です。

それでも、走り出す前から分かったことがひとつありました。支援する側が現場と同じ画面を見ていない限り、どんなに正しい助言も届かない、ということ。

僕はこの3ヶ月、社内アカウントで、社員さんと同じ制約の中でAIを触ります。そこで自分が「あ、これできないんだ」と詰まる回数が、たぶん一番の資産になる。

結果はまた、この場所で書きます。


よくある質問

Q. AIの社内活用は、何から始めればいいですか?

全社研修ではなく、1部門1名・1時間の個別相談から始めることをおすすめしています。実務の困りごとを持ち込んでもらう形にすれば、活用シーンが具体になり、社内に共有できる事例が貯まります。総務省の令和8年版情報通信白書も、環境整備で終わらせず、活用ユースケースの収集や社内展開まで行った企業が全社浸透に至った、と整理しています。

Q. 社内でAIが使われないのは、社員のリテラシーの問題ですか?

多くの場合は違います。社内向けAIチャットは管理者設定でWeb検索やモデルが制限されていることがあり、外部の支援者が高機能な環境を前提に助言すると、現場では実行できません。まず社内ツール起因の制約なのか、やり方の問題なのかを切り分ける必要があります。

Q. 公的な支援と民間の伴走支援は、どう使い分ければいいですか?

よろず支援拠点は無料・回数上限なしで相談でき、中小機構のハンズオン支援は20回程度・数カ月から10カ月程度で社内チームの自立を目指す仕組みです。まず公的支援で全体像をつかみ、自社固有の業務にAIを噛み合わせる段階で民間の伴走を足す、という順番が現実的です。


引用元・参考リンク


関連記事:


ステップアウトマーケティングでは、社員の方と同じ環境に降りて、実務の困りごとから始めるAI伴走支援を行っています。まず現状の環境と使われ方を見るところからで構いません。

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よくある質問

Q. AIの社内活用は、何から始めればいいですか?
全社研修ではなく、1部門1名・1時間の個別相談から始めることをおすすめしています。実務の困りごとを持ち込んでもらう形にすれば、活用シーンが具体になり、社内に共有できる事例が貯まります。総務省の令和8年版情報通信白書も、環境整備で終わらせず活用ユースケースの収集と社内展開まで行った企業が浸透に至った、と整理しています。
Q. 社内でAIが使われないのは、社員のリテラシーの問題ですか?
多くの場合は違います。社内向けAIチャットは管理者設定でWeb検索やモデルが制限されていることがあり、外部の支援者が高機能な環境を前提に助言すると、現場では実行できません。まず社内ツール起因の制約なのか、やり方の問題なのかを切り分ける必要があります。
Q. 公的な支援と民間の伴走支援は、どう使い分ければいいですか?
よろず支援拠点は無料・回数上限なしで相談でき、中小機構のハンズオン支援は20回程度・数カ月から10カ月程度で社内チームの自立を目指す仕組みです。まず公的支援で全体像をつかみ、自社固有の業務にAIを噛み合わせる段階で民間の伴走を足す、という順番が現実的です。

執筆者

今宿 裕昭

今宿 裕昭(いましゅく ひろあき)

ステップアウトマーケティング合同会社 代表 / マーケティングエンジニア(AI導入プロデューサー)

マーケティングエンジニア(AI導入プロデューサー)。AIを武器に、これまで大企業しか手にできなかったマーケティングの規模と質を、自らの責任と企みで一手に動かし、中小企業と日本創生の基盤作りに使う仕事を定義し直した一人会社の代表。博報堂に29年在籍し、ユーキャン・ENEOS・スズキ・スターバックス・BOSEなど大手ブランドのマーケティング戦略を指揮。年間200億円規模のプロジェクトを牽引。2020年早期退職後、滋賀県東近江市へ移住・独立。中小企業20社以上の支援実績。スポーツ庁「スポーツツーリズム創出事業」採択(2025年)。

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