マーケティング

マーケティングエンジニアとは何か──博報堂29年の戦略家が、AIで「一人広告代理店」になった話

求人サイトで見かける「マーケティングエンジニア」とは何者か。世間の主流はMarTechの実装エンジニアですが、博報堂29年の戦略家は、この言葉を『中小企業の戦略から実装までをAIで一手に動かす人』という別の意味で名乗ります。その定義と、既存職種との違いを解説します。

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今宿 裕昭

今宿 裕昭

ステップアウトマーケティング合同会社 代表|元博報堂 29年

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こんにちは、ステップアウトマーケティング代表の今宿裕昭です。

検索でこのページにたどり着いた方の多くは、求人や記事で「マーケティングエンジニア」という言葉を見て、これは何の職種だろう、と思ったはずです。

先に正直に言っておきます。世間で主流の「マーケティングエンジニア」と、僕がこの言葉で名乗っているものは、中身が違います。同じ言葉に、別の意味を入れています。

きっかけは、2026年4月29日。僕は自分の仕事を「マーケティングエンジニア」と名乗ることにしました。その朝、Claude CodeとCodexで、クライアント案件をプロトタイプから本番デプロイまで一気に持っていって、終わった瞬間に「これは新しい職種だ」と思った。その勢いでXに投稿したものです。

「戦略だけ」でも「実装だけ」でもない。中小企業の経営者と並走し、戦略を考え、AIで自分で動かす。両方やるから「マーケティングエンジニア」と名乗ることにした。

正直、半分くらいの確信でした。でも10日ほど経って、僕以外の口からこの言葉が出始めた。「新職種が登場した」と書いてくれた人、「マーケティングエンジニア(グロースハッカー?)ってかっこいいな」と呟いてくれた人、僕の肩書きをそう書いてくれた人。数は多くありません。それでも、自分以外の人が使い始めた以上、定義する責任が出てきました。

この記事は、その定義の話です。


マーケティングエンジニアとは?

定義はこうです。

マーケティングエンジニアとは、AIを武器に、これまで大企業しか手にできなかったマーケティングの規模と質──企画から制作、実行、分析まで──を、自らの責任と企みで一手に動かす人だ。その力を、中小企業と日本創生の基盤作りに使う。

この定義は、5つの要素でできています。

1. AIを「武器」にする。 ツールではありません。武器です。攻めの道具として使う。Claude Codeに「やってもらう」のではなく、「一緒に戦う相棒」として向き合う。

2. 大企業しか手にできなかった規模と質。 中小企業が外注予算を出せずに諦めてきた領域。そこが主戦場になります。

3. 企画から制作、実行、分析まで。 これまで広告会社・制作会社・PR会社・分析会社に分業されていた機能を、一人で統合して実行する。

4. 自らの責任と企み。 代理店任せではありません。経営者と並走し、自分が責任を負って、自分の企みで動かす。「企み(たくらみ)」は、戦略と意志と少しの遊びを含んだ言葉です。「企画」では少し弱い。

5. 中小企業と日本創生の基盤作り。 効率化のためでも、自分のためでもない。スケールが違う、という話です。

なぜ、こんな定義に行き着いたのか。


なぜ「プロモーション」は大企業のものだったのか?

マーケティングの基本に、4P(Product / Price / Place / Promotion)という分類があります。このうちプロモーションは、長らく「広告代理店に依頼するもの」でした。

ここで一つ整理させてください。広告代理店に依頼していたのは、中小企業ではなく、大企業の方です。

トヨタ、サントリー、花王。日本を代表するメーカーですら、プロモーション領域は外注していました。なぜか。

メーカー発想と、生活者発想の間に、深い溝があったからです。

工場の論理、技術の論理、組織の論理。メーカーの中にいると、その言葉でしか商品を語れなくなる。一方、商品を買うのは生活者です。生活者は工場の論理では動きません。

その溝を埋める「翻訳者」が、広告代理店でした。電通・博報堂をはじめとする大手代理店は、メーカーと生活者の間に立ち、生活者の言葉に翻訳する仕事を引き受けた。高度経済成長期から平成にかけて、その翻訳の質が企業の成長を左右した時代があります。広告会社の提案が、文字どおり光って見えた時代です。

業界の構造としても、この「翻訳」は分業で回ってきました。広告代理店が戦略と全体設計を持ち、制作会社・PR会社・分析会社が機能ごとに分かれて動く。専門会社が役割ごとに並ぶ構造です(参考: 広告・マーケティング業界の構造解説(fly-edge))。

では、中小企業はどうだったか。

中小企業は、そもそも大手広告会社にアクセスできない世界にいました。電通・博報堂の本流の仕事は、最低ロットが数千万円から億単位。それを払える中小企業はほぼゼロです。広告賞を狙ってスーパークリエイターに発注する、というごく少数の例外はありました。でも、それは本流ではない。

つまり中小企業のマーケティングは、ずっと「翻訳者なき世界」で行われてきました。メーカー発想のまま商品を作り、メーカー発想のまま広告を打ち、生活者にうまく届かない。その状態が、何十年も続いてきたわけです。

僕がこのことに最初に気づいたのは、頭ではなく現場でした。

震災から4年が経った2015年以降、博報堂のプロボノとして「東北未来創造イニシアティブ」が運営する経営未来塾に関わらせてもらいました。釜石、大船渡、気仙沼。岩手・宮城の被災地で、地元の中小企業経営者と6ヶ月かけて向き合う塾です。僕はそこでマーケティング戦略の講義を担当しました。

そのとき、僕は何も理解できていなかった。大企業のマーケティング戦略の言葉で、中小企業の経営者に話していた。何も伝わらなかったんです。自分が博報堂で何年もかけて磨いてきた言葉が、目の前の人たちには一つも届かなかった。申し訳ない気持ちで、塾を後にしました。

この原体験が、今の僕の奥底にあります。中小企業に届くマーケティングの言葉も、道具も、僕はあのとき持っていなかった。


中小企業を縛っていた「二重の制約」とは?

時間軸を進めます。

2010年代に入って、中小企業のマーケティングにも内製化の波が届きました。SNS投稿、ブログ、メルマガ、ランディングページ。経営者や担当者が、自分で動かす領域が増えてきた。

でも、規模と質に天井がありました。Web制作は専門スキルが要る。動画は撮影技術が要る。データ分析は知識が要る。コピーライティングは経験が要る。内製化できたのは「小規模・低コスト施策」までで、本格的な戦略・キャンペーン設計は、相変わらず手の届かない世界にあり続けました。

つまり中小企業は、二重の制約に閉じ込められていた。

制約 中身
翻訳者なき世界 大手広告会社にアクセスできない。生活者への翻訳機能を外から借りられない
規模なき世界 自社で大企業並みのアウトプットを作る人材・スキルがない

大企業のように外注で光らせる予算もない。自社で大企業並みのアウトプットを作る力もない。この二重の制約が、長く中小企業のマーケティングを縛ってきました。


AIは、その天井を壊したのか?

2024年、状況が変わりました。

ChatGPT、Claude、Codex、Genspark。次々と登場したAIによって、かつて広告代理店でしか作れなかったレベルのアウトプットが、一人の手の中で生まれるようになった。

しかも、AIは生活者の言葉を持っています。学習データには、人々が日々交わしている生活の言葉が大量に含まれている。メーカー発想と生活者発想の間にあった深い溝を、AIは構造的に埋めてくれる。

これは「便利になった」という話ではありません。中小企業がずっと持てなかった「翻訳機能」と「規模・質」を、両方同時に手に入れる時代が来た、ということです。

抽象論に聞こえるかもしれないので、自分の手元で起きたことを書きます。ただ、これは「今宿がすごい」という話ではありません。AIが武器になったとき、一人会社の手元に降りてきた仕事の量と質を、事実として書きたいだけです。

2024年12月からのおよそ半年で、一人で動かしたものを並べます。

  • ステップアウトの自社サイト(Next.js + TypeScript、Vercelデプロイまで一気通貫)
  • 太郎坊チャレンジ大会の公式サイト(日本語・英語・繁体字中国語の3言語版)
  • 化粧品メーカーの販売関連サイト
  • イベント運営会社向けの経営ダッシュボード
  • AI活用レベル診断ツール(独自スコアリング+データ蓄積基盤)
  • note「Good Morning Insight」を毎朝7時配信(半年で約100本超)
  • ポッドキャスト自動生成パイプライン(原稿→台本→音声→YouTube動画まで)
  • 5社15案件の月次伴走支援(戦略立案・実行・AI実装)
  • 月10件超の提案書・企画書
  • 太郎坊チャレンジ大会の協賛営業・PR・行政折衝
  • 観光庁補助事業の申請(要件定義から提案書作成まで)

これ全部を、一人で、AIと一緒に動かしています。

正直、書き出してみて自分でも驚いています。これは、博報堂時代にストラテジー・クリエイティブ・PR・調査の各部署、何十人ものスタッフと組んで回していた規模感に近い。それを、滋賀の一人会社で、Claude CodeとCodexを武器にやっている。

繰り返します。僕の力ではありません。AIが武器になったから、一人会社が動かせる範囲がここまで広がった。それだけのことです。

「広告代理店でしか作れなかった規模と質」が、AIによって一人の手元に降りてきた。これは、マーケティングという仕事の構造そのものが変わったということです。構造が変わったなら、職種の輪郭も変わる。だから僕は、名前をつけました。


世間でいうマーケティングエンジニアとどう違う?

検索すると、「マーケティングエンジニア」という言葉はすでに使われています。求人サイトでも数千件単位で出てきます(参考: Indeed「マーケティングエンジニア」求人)。

正直に書きます。この言葉は、僕が初めて使ったわけではありません。

世間の主流は、MarTech領域の実装エンジニアです。広告API、MA、CDP、BIツール。マーケティングの技術スタックをAPIやコードでつなぎ、データ基盤・計測・自動化を技術で支える職種です。マーケターとWebエンジニアの間を翻訳する役割、と言ってもいい(参考: マーケティングエンジニアとは(data-engineering.jp))。

この既存の「マーケティングエンジニア」は、僕がやろうとしていることと方向性が近い。「マーケティングと実装の両方をやる」という骨格は同じです。先にこの言葉を使ってきた人たちの仕事には、リスペクトを払いたい。

その上で、僕の定義は何が違うのか。3点です。

観点 MarTech実装型(世間の主流) 僕の定義
相手 広告主・大企業のマーケ部門 中小企業の経営者
道具 広告API・MA・CDP・BIの統合 生成AI(Claude Code・Codex等)
出自 エンジニア/マーケテック企業 博報堂29年の戦略思考
領域 デジタル広告運用の最適化 戦略立案から制作・実行・分析までの統合
スケール 広告効率・ROIの改善 中小企業と日本創生の基盤作り

違いは「相手」「道具」「スケール」の3点です。既存のマーケティングエンジニアを否定するのではなく、その先を生成AIで拡張する。それが僕の立ち位置です。

ついでに、よく一緒に検索される言葉も整理しておきます。「グロースハッカー」と「マーケティングエンジニア」は近いようで軸が違う。グロースハッカーはプロダクトの成長施策そのものに軸足を置きます。一方マーケティングエンジニアは、マーケのデータ基盤・計測・自動化を技術で支える側です(参考: グロースハッカーとマーケターの違い(formarketer))。僕の名乗りは、そのどちらでもなく、戦略から実装までを一人で一手に動かす独立した個人、という新しい中身です。

つまり、こういう状態です。世間は「雇われる職種としての実装エンジニア」をこの言葉で呼ぶ。僕は「戦略から実装まで一手に動かす独立した個人」をこの言葉で呼ぶ。同じ語に、別の中身を入れている。それが差別化であり、再定義です。


ここから、中小企業が持ち帰れること

「博報堂29年の戦略家が一人で全部やっている」と書くと、自分には関係ない話に聞こえるかもしれません。でも、持ち帰れるのは僕の経歴ではなく、構造です。

なぜ僕が中小企業にこだわるのか。数字を置きます。

日本の企業のうち、99.7%が中小企業です。そして雇用の約7割、付加価値の約5割を支えています(参考: 中小企業白書2021年版(中小企業庁))。

その中小企業が手にできるマーケティングの武器は、長らく大企業の半分以下でした。広告代理店に頼めない。専門人材を雇えない。だから規模と質の天井に閉じ込められてきた。

AIが、その壁を壊しました。今、中小企業でも、大企業並みの戦略・制作・実行・分析ができる時代に入っています。だから、その通訳をする職種が要る。中小企業の経営者と一緒に座って、AIを武器に、戦略から実装まで一手に動かす。それがマーケティングエンジニアです。

中小企業の経営者の方が今日から考えられることは、たぶん2つです。

ひとつ。これまで「予算がないから諦めていた」マーケティング領域を、もう一度棚卸しすること。Web、動画、コピー、分析。外注前提で諦めていたものの中に、AIを武器にすれば手の届くものが混ざっています。

もうひとつ。「分業の壁」を疑うこと。戦略は誰、制作は誰、分析は誰、と機能ごとに分けて発注してきた前提が、いま崩れかけています。一人で、あるいは社内の数人で、企画から分析まで通して回せるかもしれない。

そして僕は、それを滋賀から発信しています。日本の隠れた中心は、東京じゃなく地方にある、と信じているからです。地方の中小企業が強くなることが、日本創生だと思っています。


おわりに

自分の仕事に名前をつけてみて、毎日実感していることがあります。名前をつけると、仕事の輪郭が立ち上がる。やっていることがブレなくなる。

これは僕個人の宣言で、誰かを誘いたいわけではありません。ただ、「マーケティングエンジニア」という言葉が、読んでくれたあなたの仕事に少しでも輪郭を与えるなら、それは素直に嬉しいです。

この続きは、シリーズとして月1本のペースでnoteに書いています。実際の案件を工程まで分解した話や、一人で5社15案件を回す段取りの話まで。よかったらそちらも覗いてみてください。


引用元・参考リンク


関連記事:


この「マーケティングエンジニア」という考え方の根っこにある話は、毎朝のnote「Good Morning Insight」でも書いています。日経の一面を、中小企業経営の言葉に翻訳する作業を続けています。

→ noteをフォローする: https://note.com/stepoutmarketing


来週のマーケティングエンジニア・ラボ(毎週月曜17時・無料・少人数)

毎朝のnote「Good Morning Insight」で日経一面を中小企業経営に翻訳する作業を、参加者の業界ニュースを材料にライブで実演します。「AIを武器に、戦略から実装まで一手に動かす」を目の前でお見せする場です。コンサル・士業・経営者の方へ。

事前申込制です。本名でなくニックネームでもOKです。


ご相談

「マーケティングエンジニアと話してみたい」「うちのマーケのどこからAIを武器にできるか、一緒に棚卸ししたい」という方は、お気軽にどうぞ。

→ お問い合わせ: https://www.step-out.jp/contact


今宿 裕昭(いましゅく ひろあき) ステップアウトマーケティング合同会社 代表 博報堂に29年間在籍 → 滋賀の一人会社。武器はClaude CodeとCodex。 中小企業の生成AI導入を支援しています。

→ サイト: https://www.step-out.jp

よくある質問

Q. マーケティングエンジニアとは何ですか?
AIを武器に、これまで大企業しか手にできなかったマーケティングの規模と質──企画から制作、実行、分析まで──を、自らの責任と企みで一手に動かす人です。その力を、中小企業と日本創生の基盤作りに使います。
Q. 一般的なマーケティングエンジニア(MarTech)と何が違いますか?
違いは「相手」「道具」「スケール」の3点です。世間の主流は広告API・MA・CDP・BIをつなぐMarTech実装エンジニアですが、僕の定義は、相手が中小企業の経営者、軸が戦略×生成AI実装、スケールが日本創生の基盤作りです。否定ではなく、その先を生成AIで拡張する立ち位置です。
Q. AIで仕事は消えますか、それとも増えますか?
少なくとも僕の実感では、増えました。博報堂時代に各部署・何十人と組んで回していた規模感に近いことを、AIを武器に一人会社でやれています。消えるのは「分業の壁」であって、仕事そのものではありません。
Q. なぜ中小企業を相手にするのですか?
日本企業の99.7%が中小企業で、雇用の約7割、付加価値の約5割を支えているからです(中小企業白書)。長らく大企業の半分以下のマーケ武器しか持てなかった中小企業が、AIで壁を壊せる時代になりました。だから通訳する職種が要る、と考えています。

執筆者

今宿 裕昭

今宿 裕昭(いましゅく ひろあき)

ステップアウトマーケティング合同会社 代表 / マーケティングエンジニア(AI導入プロデューサー)

マーケティングエンジニア(AI導入プロデューサー)。AIを武器に、これまで大企業しか手にできなかったマーケティングの規模と質を、自らの責任と企みで一手に動かし、中小企業と日本創生の基盤作りに使う仕事を定義し直した一人会社の代表。博報堂に29年在籍し、ユーキャン・ENEOS・スズキ・スターバックス・BOSEなど大手ブランドのマーケティング戦略を指揮。年間200億円規模のプロジェクトを牽引。2020年早期退職後、滋賀県東近江市へ移住・独立。中小企業20社以上の支援実績。スポーツ庁「スポーツツーリズム創出事業」採択(2025年)。

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