こんにちは、ステップアウトマーケティング合同会社 代表の今宿裕昭です。
生成AIを使う社員は、ずいぶん増えました。ChatGPTでメールを書く。Claudeで企画のたたき台をつくる。会議を文字起こしして、議事録にまとめる。
それでも経営者の立場から見ると、別の疑問が残ります。
「社員はAIを使っているようだけれど、会社全体の仕事は本当に変わったのだろうか?」
この疑問は、もっともだと思います。とくに広告・イベント・制作会社では、生成AIの活用が個人の工夫で止まりやすい。原因は社員のやる気やITスキルではなく、仕事の分かれ方にあります。
この記事では、30〜100人規模の広告・イベント・制作会社を念頭に、生成AI活用を「個人止まり」から会社の仕組みへ進める考え方を書きます。ツールの比較ではなく、仕事の見方の話です。
A社担当とB社担当は、別の仕事をしているように見える
広告・イベント・制作の仕事は、顧客や案件ごとにチームが動きます。A社チーム、B社チーム、C社チーム。商品も、担当者も、スケジュールも違います。
縦に見れば、それぞれ別の仕事です。たとえばA社の新商品キャンペーンと、B社の周年イベントと、C社の採用サイト。これを並べて比べようという発想は、ふつう出てきません。
ところが、横から見ると景色が変わります。どの案件にも、だいたい次のような仕事があります。
- オリエンの整理
- 市場調査・競合調査
- 打ち合わせの議事録
- 企画のたたき台
- 提案資料と見積の下準備
- 進行表・スケジュール
- 実施後の報告書やアンケート集計
案件の中身は違っても、仕事の「種類」はかなり似ています。
僕はマツダで商品企画・販売企画を経験したあと、博報堂・TBWA博報堂で約29年間、広告の仕事をしてきました。だから、クライアントごとにチームが分かれ、それぞれが目の前の案件に全力を注ぐ構造はよく分かります。その一方で、会社全体を横から見ると、似た仕事が各所で繰り返されている。いまAI導入を支援する立場になって、この構造が生成AI活用にもそのまま表れていると感じています。
厄介なのは、担当者本人からはこの重複が見えにくいことです。担当者は自分の案件を進めるので精一杯で、隣のチームがどんな形式で議事録をまとめ、どんな手順で競合を調べているかを見る余裕はありません。見えないものは、比べられません。
縦に見ると、それぞれ別の案件。
横に見ると、共通する業務が並んでいます。
生成AIを配っただけでは、この重複はなくならない
そこにChatGPTやClaudeを導入すると、何が起きるか。
Aさんは、自分で工夫したプロンプトで競合調査を速くします。Bさんは、別のやり方で議事録をまとめます。Cさんは、忙しくてあまり触っていません。
個人の仕事は、確かに速くなることがあります。それ自体は良いことです。ただ、会社として見ると構造は変わっていません。同じ種類の仕事を、それぞれが別々のやり方で続けているからです。
放っておくと、AIの使い方まで人ごとに分かれ、ノウハウは個人の中に閉じたままになります。Aさんのうまいプロンプトは、Aさんが異動すれば一緒に持っていかれます。
だから見るべきは、「誰がAIを使えるか」だけではありません。会社のどの仕事を共通化できるかです。
AI研修の次に必要なのは「社員の仕事を見ること」
AI研修を否定するつもりはありません。使い始めるきっかけとして、研修は役に立ちます。基本の操作や注意点を、全員でそろえて学ぶ場は必要です。
ただ、AIの知識を身につけることと、会社の業務の構造を変えることは別の話です。研修で扱えるのは、参加者に共通する知識とプロンプトの例です。一方、広告・イベント・制作会社の仕事は、社員ごと・案件ごとに中身が違います。研修の翌日に社員が向き合うのは、自分の案件の議事録であり、自分の顧客への提案書です。
そこで次にやるのが、一人ひとりの仕事を見ることです。たとえば1on1で、こんなことを聞いていきます。
- 今週、いちばん時間がかかった仕事は何か
- 毎回ゼロからつくっているものは何か
- ほかの案件でも使えそうなものは何か
1人目の話だけでは、その人の困りごとにしか見えません。ところが5人、10人と聞いていくと、「これ、別のチームでもやっている」が出てきます。個人の悩みに見えていたものが、会社の共通業務として見えてくる。ここが、生成AI活用が個人から会社へ進む分かれ目です。
僕もいま、約100名規模のイベント関連企業で、対象社員との1on1から支援を始めています。まだ取り組みの途中で、成果を語れる段階ではありません。それでも、一人ひとりの実務を聞くところから入るのは、この「横から比べる」ための材料を集めるためです。
個人のプロンプトを、会社の資産へ変える
共通する仕事が見つかったら、次はそれを「誰でも使える形」にしていきます。競合調査を例にします。
最初にあるのは、Aさんだけが使っているプロンプトです。Aさんは慣れているので、うまく結果を出せます。ただ、それをそのままBさんに渡しても、同じ品質にはなりません。何を入れればいいのか、どんな形で出てくれば合格なのかが、Aさんの頭の中にしかないからです。
そこで、次の順に整理します。
- 入力をそろえる:クライアント名、商品カテゴリ、比べたい競合、調べる観点など、毎回入れる情報を決める
- 出力の形をそろえる:比較表にするのか、提案書にそのまま貼れる要約にするのか、出てくる形式を決める
- 人が確認するポイントを決める:数字や固有名詞の裏取り、クライアント固有の事情など、AIに任せきらない箇所をはっきりさせる
ここまで整えると、Aさんのプロンプトはチームのテンプレートになります。さらに、調査の前後にある作業、たとえばオリエン内容の整理や提案書への反映までつなげれば、共通のワークフローになります。頻度が高く手順が固まってきたものは、必要に応じて簡易なツールにすることも考えます。
社員A
自分流で作成
社員B
自分流で作成
社員C
自分流で作成
社員D
自分流で作成
似た仕事でも、担当者ごとに手順が分かれています。
共通する仕事を発見
大事なのは、最初から立派な仕組みを設計しないことです。個人の工夫という、現場で実際に効いたものから出発する。だから、別の担当者も使える形に育てやすい。社員の工夫を取り上げるのではなく、会社の資産として残していく考え方です。
広告会社だからこそ、AIで減らしてはいけない仕事もある
ここまで読むと、「全部AIにやらせる話か」と感じる方もいるかもしれません。そうではありません。
広告・イベント・制作の仕事には、人が時間を使うべき仕事がはっきりあります。
- クライアントの言葉の裏にある、本当の課題を読む
- その企画が本当に面白いかを判断する
- コピーやデザインの小さな違和感に気づく
- クリエイター同士で議論して、案を磨く
- 現場で起きた予想外の事態に対応する
- 関係者との信頼を積み上げる
どれも、情報整理や下調べとは性質の違う仕事です。広告の仕事の価値は、むしろこちら側にあると僕は考えています。
ところが忙しい時期ほど、議事録の整理や資料の体裁合わせ、集計や報告書の下書きに時間を取られ、考える時間が後回しになりがちです。
だから、繰り返しの仕事をAIに渡す。目的は人を減らすことではなく、人が考える時間を取り戻すことです。AIがつくった下書きや集計も、最後は人が確かめます。AIと人は、仕事を奪い合う関係ではなく、分担する関係です。
AIに任せやすい仕事
準備・整理・下書き。最後は人が確かめる。
- 情報整理
- 議事録
- 下調べ
- 集計
- 初稿
- 定型的な書類準備
空いた時間を回す
人が時間を使いたい仕事
判断・対話・現場。ここに時間を集める。
- 顧客理解
- 企画判断
- クリエイティブ判断
- 違和感を見つける
- 対話
- 現場対応
人をAIに置き換えるのではなく、人が考える時間を取り戻す。
まず、3人の仕事を横に並べてみる
では、何から始めればいいのか。最初から全社のDX計画をつくる必要はありません。
おすすめしたいのは、違う案件を担当している3人に、「この1週間でつくったもの」を出してもらうことです。
- 議事録
- 提案書
- 調査資料
- Excelの集計表
- 報告書
- 送ったメール
これを画面に横に並べてみてください。案件は違うのに構成が似ている資料や、同じ手順でつくっている表、毎回似た文面のメールが見つかれば、それが最初の生成AIのテーマです。見つからなければ、3人の選び方を変えるか、見る範囲を少し広げてみます。
「どのAIツールを入れるか」から始めるのではなく、「社員の仕事を見る」ところから始める。遠回りに見えますが、個人の工夫を会社の仕組みにつなげるには、この順番がいちばん確かだと僕は考えています。
広告・イベント・制作会社の方へ
ステップアウトでは、30〜100人規模の広告・イベント・制作会社を対象に、社員の実務を見ながら、案件をまたいで繰り返されている仕事を見つけ、生成AI・テンプレート・ワークフローとして会社の仕組みに変える伴走支援を行っています。
- 「AI研修はやった。でも会社の仕事が変わった感じがしない」
- 「社員によってAIの使い方がバラバラ」
- 「同じような資料を、各チームが毎回つくっている」
そんな段階からで構いません。
→ 広告・イベント・制作会社向けの生成AI業務改善・伴走支援を見る
関連記事:
