生成AI活用

note記事1本を読ませたら、2日でアプリになった──スタンフォード式「多視点リサーチ」を、コード0行でつくった話

スタンフォード発のリサーチ手法「STORM」を、あるnote記事1本を起点に、AIとの会話だけで2日でアプリにしました。コードは1行も書いていません。多視点で“対立と盲点”を洗い出すこの手法を、中小企業の意思決定にどう持ち帰れるかまで、実話で解説します。

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今宿 裕昭

今宿 裕昭

ステップアウトマーケティング合同会社 代表|元博報堂 29年

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90秒でわかる、STORMマシン(音声あり)

こんにちは、ステップアウトマーケティング代表の今宿裕昭です。

新しい業界のクライアントから相談が入る。商談まで、あと3日。……さて、何から調べますか。

コンサルティングの現場でいちばん時間を食うのは、この「初めての業界を、短時間で立体的に掴む」作業です。検索して、記事をいくつか読んで、なんとなくわかった気になる。でも商談の場で刺さるのは、その業界の“中で対立している論点”を知っているかどうかです。表面的な検索では、そこまで届きません。

先日、こんなnote記事が流れてきました。「スタンフォード式STORMメソッド:Claudeを数分で『博士レベル』の研究者に変える方法」。スタンフォード大学の研究チームがつくった「STORM」というリサーチ手法を、Claudeに4つのプロンプトを渡すだけで再現できる、という内容でした。

読んで、素直に「面白い」と思いました。そして、広告屋というより“つくる側”のサガで、こう思ってしまった。

これ、プロンプトを毎回コピペするより、アプリにしたほうが早い。

結果として、2日でアプリになりました。しかも、僕はコードを1行も書いていません。


そもそも「STORM」って何なのか

STORMは、スタンフォード大学のOVAL Labが開発したリサーチ手法です。2024年の自然言語処理の国際会議で発表された論文(NAACL 2024)が下敷きになっています。

名前は「Synthesis of Topic Outlines through Retrieval and Multi-perspective question asking」の頭文字。ざっくり訳すと「検索と“多視点の問い”から、トピックの骨格を組み立てる」手法です。

ふつうのAIリサーチは、ひとつのAIが「はい、これが答えです」と報告書を出してきます。STORMが違うのは、最初に“複数の視点”を立てるところです。あるテーマについて、立場の異なる専門家がそれぞれの関心から質問を投げ、その質問に別のAIが答える。この“対話”を通じて情報を集め、最後に一本の記事へ統合します。

OpenAIやGeminiの「ディープリサーチ」を触ったことがある方は、動きのイメージが近いかもしれません。OpenAIのDeep Researchも、数百のサイトを自律的に巡って報告書を書きます。ただSTORMの面白さは、“網羅性”より先に、「誰と誰が、何で対立しているか」を構造にするところにあります。論文によれば、STORMでつくった記事は、ふつうのやり方に比べて「構成の良さ」の評価が25ポイント高かったそうです。


AIが5人の専門家を“その場で設計”して、勝手に議論する

つくったのは、テーマを入れると次のことが自動で進むアプリです。

  • 5人のAI専門家が、それぞれの視点から並列でWeb調査する
  • 集まった情報から、視点どうしの対立点を洗い出す
  • ひとつの報告書に統合する
  • 最後に、自分でその報告書を査読して、信頼度を点数化する

スタンフォード発のSTORMメソッドを再現した自作リサーチアプリのトップ画面。「5人の専門家が、あなたの代わりに調べる。」というコピーと、新規クライアント業界リサーチ・企業分析・交渉準備・投資判断などの活用法プリセットが並ぶ

面白いのは「おまかせ」機能です。テーマを入れるだけで、AIがそのテーマ専用の“専門家パネル”をその場で設計する。たとえば「滋賀県の造園業」と入れれば、規制・商習慣の専門家、デジタル化の専門家、業界構造アナリスト、顧客代表といった顔ぶれが勝手に組まれます。業界が変われば、呼ばれる専門家も変わる。

新規クライアントの業界を、商談前にこの5人がかりで下調べしてくれる。最初にほしかったのは、まさにこれでした。


いちばん効くのは、“対立”を見せてくれること

使ってみて、いちばん価値を感じたのはここでした。

ふつうの検索は「答え」をくれます。STORMは「論点と、その対立」をくれる。

STORMレポートの「対立と合意」画面。集客施策の成功指標を問い合わせ数に置くべきか等の論点ごとに、デジタル専門家と業界構造アナリストの主張が並び、その下に判定と、誰も触れなかった盲点が列挙されている

試しに「造園業」で走らせたら、こんな対立が出てきました。「集客の成功指標を“問い合わせ数の増加”に置くべきか」という論点に対して、デジタル専門家は「MEO(Googleマップ上での検索対策)活用で問い合わせが2倍になった事例がある、有効な指標だ」と言う。一方で業界構造アナリストは「労働集約型で繁忙期に人を増やせないから、問い合わせ数を単純な指標にすると対応しきれず評判を落とす」と反論する。

どちらも正しい。そして、この対立を先に知っているかどうかが、商談の質を変える

さらに「誰も触れなかった盲点」まで並べてくれます。造園業なら「集客を増やした場合に職人の採用・育成が追いつくのか、需要創出と供給キャパの整合性検証が抜けている」といった具合に。検索では、こういう“抜けている論点”は出てきません。


自分で自分を採点する──「58点」という正直さ

もうひとつ気に入っているのが、報告書の最後にある自己査読です。

STORMレポートの自己査読画面。「58 / 100」という大きなスコアと「鵜呑みにしない ― 追加調査を推奨」の但し書き、そして一次データが無いため確信度をそのまま業者評価に使ってはいけない、という自己批判が書かれている

このアプリは、自分が出した報告書を自分で採点します。造園業のレポートは、100点満点で58点でした。理由も正直に書いてある。「業界一般論としては堅牢だが、対象企業の実態が未確認で、提案には時期尚早」と。

AIというと「なんでも自信満々に答える」印象があるかもしれません。でも、いちばん危ないのは、確からしくない情報を確からしく語ることです。「ここは弱い」「まだ裏が取れていない」と自分から言ってくれるほうが、実務では何倍も信用できる。

58点。この“満点じゃない”という設計が、僕はいちばん好きです。


コードは、1行も書いていない

ここまで読んで「エンジニアなんでしょう」と思われたかもしれません。違います。やったのは、AIと会話することだけでした。

使ったのはClaude Codeという、Anthropicのエージェント型AI(モデルはClaude Fable 5)です。「STORMのアプリをつくりたい」と相談するところから始めて、あとはずっと会話でした。

  • 「報告書が縦長で読みにくい」→ 目次をクリックして開く形に作り直し
  • 「文章がAIっぽい。もっと素っ気なくして」→ 絵文字を全廃し、罫線と番号だけの“スイス風”デザインに
  • 「テーマ専用の専門家を自動で設計する“おまかせ”がほしい」→ 実装

こういう仕様変更を、ひとつあたり30分から2時間くらいで、全部“会話”で反映していきました。デザインの品質チェックすら、別のAIエージェントに「WCAG(Webのアクセシビリティ基準)でコントラストを実測して」と頼み、4回監査させています。

もちろん、一発でうまくいったわけではありません。最初のテストでは不具合が2つ出て、直して、動くまでに時間がかかった。「縦長で読みにくい」の作り直しも、一度まるっと捨てています。完璧な一発ではなく、会話しながら直す。この進め方だからこそ、2日で形になりました。

最終的に、スマホのホーム画面から全画面で開けるところまで持っていきました。note記事1本が、2日で、ポケットに入る道具になった。


この2日間から、何を持ち帰れるか

「うちにはエンジニアもいないし、そんな時間もない」。そう思われた方に、持ち帰れる“型”を2つ。

1. 意思決定の前に、“答え”より先に“対立と盲点”を集める

これはアプリがなくてもできます。起点になったnote記事にあった通り、STORMの考え方は、AIに「このテーマについて、立場の違う専門家を5人立てて、それぞれの視点から論点と対立を洗い出して。最後に、誰も触れていない盲点も挙げて」と頼むだけでも、かなり再現できます。新しい業界を調べるとき、投資や新規事業を判断するとき、いつもの検索の前にこの一手を挟むと、見える景色が変わります。

2. 「自分の業務の困りごと」は、もう“道具”に変えられる

かつて、業務専用のツールをつくるには、要件を書き、見積もりを取り、数十万円と数週間をかけて外注するのが当たり前でした。いまは、困っていることをAIに話し、会話しながら直していけば、数日で自分専用の道具になる。

大事なのは、完璧を目指さないこと。まず動くものをつくって、使いながら直す。58点でいい。走り出してから点を上げればいい。


おわりに

正直に言うと、2日目の夜にスマホでこのアプリが開いたとき、少しだけ笑ってしまいました。数日前まで、ただのnote記事だったのに。

派手なAI活用の話ではありません。目の前の「初めての業界、どう調べよう」という地味な困りごとを、道具に変えただけです。でも、この“地味を道具に変える”速度が、いまのいちばん面白いところだと思っています。

あなたの業務にも、「毎回めんどうだな」と思っている作業が、きっとあるはずです。それ、たぶん道具にできます。


引用元・参考リンク


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よくある質問

Q. STORMメソッドとは何ですか?
スタンフォード大学OVAL Labが開発し、2024年の国際会議NAACL 2024で発表されたリサーチ手法です。ひとつのAIに答えを出させるのではなく、立場の異なる複数の視点を立て、それぞれが調べて質問し合い、論点と対立を洗い出してから一本の報告書に統合するのが特徴です。
Q. エンジニアでなくても、AIで業務用の道具はつくれますか?
つくれます。この記事のアプリは、AIエージェント(Claude Code)と会話しながら仕様を伝え、直していく形で作りました。人間が書いたコードは0行です。完璧な一発を狙わず、まず動くものをつくって使いながら直す進め方なら、数日で自分専用の道具になります。
Q. 普通のAIリサーチやディープリサーチと、何が違うのですか?
普通のリサーチは「答え」や「網羅的な報告書」をくれます。STORMは、答えより先に「誰と誰が、何で対立しているか」という論点の構造と、誰も触れていない盲点を見せてくれます。意思決定の前に対立と盲点を把握できるのが実務上の違いです。

執筆者

今宿 裕昭

今宿 裕昭(いましゅく ひろあき)

ステップアウトマーケティング合同会社 代表 / マーケティングエンジニア(AI導入プロデューサー)

マーケティングエンジニア(AI導入プロデューサー)。AIを武器に、これまで大企業しか手にできなかったマーケティングの規模と質を、自らの責任と企みで一手に動かし、中小企業と日本創生の基盤作りに使う仕事を定義し直した一人会社の代表。博報堂に29年在籍し、ユーキャン・ENEOS・スズキ・スターバックス・BOSEなど大手ブランドのマーケティング戦略を指揮。年間200億円規模のプロジェクトを牽引。2020年早期退職後、滋賀県東近江市へ移住・独立。中小企業20社以上の支援実績。スポーツ庁「スポーツツーリズム創出事業」採択(2025年)。

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