こんにちは、ステップアウトマーケティング代表の今宿裕昭です。
新しい業界のクライアントから相談が入る。商談まで、あと3日。……さて、何から調べますか。
コンサルティングの現場でいちばん時間を食うのは、この「初めての業界を、短時間で立体的に掴む」作業です。検索して、記事をいくつか読んで、なんとなくわかった気になる。でも商談の場で刺さるのは、その業界の“中で対立している論点”を知っているかどうかです。表面的な検索では、そこまで届きません。
先日、こんなnote記事が流れてきました。「スタンフォード式STORMメソッド:Claudeを数分で『博士レベル』の研究者に変える方法」。スタンフォード大学の研究チームがつくった「STORM」というリサーチ手法を、Claudeに4つのプロンプトを渡すだけで再現できる、という内容でした。
読んで、素直に「面白い」と思いました。そして、広告屋というより“つくる側”のサガで、こう思ってしまった。
これ、プロンプトを毎回コピペするより、アプリにしたほうが早い。
結果として、2日でアプリになりました。しかも、僕はコードを1行も書いていません。
そもそも「STORM」って何なのか
STORMは、スタンフォード大学のOVAL Labが開発したリサーチ手法です。2024年の自然言語処理の国際会議で発表された論文(NAACL 2024)が下敷きになっています。
名前は「Synthesis of Topic Outlines through Retrieval and Multi-perspective question asking」の頭文字。ざっくり訳すと「検索と“多視点の問い”から、トピックの骨格を組み立てる」手法です。
ふつうのAIリサーチは、ひとつのAIが「はい、これが答えです」と報告書を出してきます。STORMが違うのは、最初に“複数の視点”を立てるところです。あるテーマについて、立場の異なる専門家がそれぞれの関心から質問を投げ、その質問に別のAIが答える。この“対話”を通じて情報を集め、最後に一本の記事へ統合します。
OpenAIやGeminiの「ディープリサーチ」を触ったことがある方は、動きのイメージが近いかもしれません。OpenAIのDeep Researchも、数百のサイトを自律的に巡って報告書を書きます。ただSTORMの面白さは、“網羅性”より先に、「誰と誰が、何で対立しているか」を構造にするところにあります。論文によれば、STORMでつくった記事は、ふつうのやり方に比べて「構成の良さ」の評価が25ポイント高かったそうです。
AIが5人の専門家を“その場で設計”して、勝手に議論する
つくったのは、テーマを入れると次のことが自動で進むアプリです。
- 5人のAI専門家が、それぞれの視点から並列でWeb調査する
- 集まった情報から、視点どうしの対立点を洗い出す
- ひとつの報告書に統合する
- 最後に、自分でその報告書を査読して、信頼度を点数化する

面白いのは「おまかせ」機能です。テーマを入れるだけで、AIがそのテーマ専用の“専門家パネル”をその場で設計する。たとえば「滋賀県の造園業」と入れれば、規制・商習慣の専門家、デジタル化の専門家、業界構造アナリスト、顧客代表といった顔ぶれが勝手に組まれます。業界が変われば、呼ばれる専門家も変わる。
新規クライアントの業界を、商談前にこの5人がかりで下調べしてくれる。最初にほしかったのは、まさにこれでした。
いちばん効くのは、“対立”を見せてくれること
使ってみて、いちばん価値を感じたのはここでした。
ふつうの検索は「答え」をくれます。STORMは「論点と、その対立」をくれる。

試しに「造園業」で走らせたら、こんな対立が出てきました。「集客の成功指標を“問い合わせ数の増加”に置くべきか」という論点に対して、デジタル専門家は「MEO(Googleマップ上での検索対策)活用で問い合わせが2倍になった事例がある、有効な指標だ」と言う。一方で業界構造アナリストは「労働集約型で繁忙期に人を増やせないから、問い合わせ数を単純な指標にすると対応しきれず評判を落とす」と反論する。
どちらも正しい。そして、この対立を先に知っているかどうかが、商談の質を変える。
さらに「誰も触れなかった盲点」まで並べてくれます。造園業なら「集客を増やした場合に職人の採用・育成が追いつくのか、需要創出と供給キャパの整合性検証が抜けている」といった具合に。検索では、こういう“抜けている論点”は出てきません。
自分で自分を採点する──「58点」という正直さ
もうひとつ気に入っているのが、報告書の最後にある自己査読です。

このアプリは、自分が出した報告書を自分で採点します。造園業のレポートは、100点満点で58点でした。理由も正直に書いてある。「業界一般論としては堅牢だが、対象企業の実態が未確認で、提案には時期尚早」と。
AIというと「なんでも自信満々に答える」印象があるかもしれません。でも、いちばん危ないのは、確からしくない情報を確からしく語ることです。「ここは弱い」「まだ裏が取れていない」と自分から言ってくれるほうが、実務では何倍も信用できる。
58点。この“満点じゃない”という設計が、僕はいちばん好きです。
コードは、1行も書いていない
ここまで読んで「エンジニアなんでしょう」と思われたかもしれません。違います。やったのは、AIと会話することだけでした。
使ったのはClaude Codeという、Anthropicのエージェント型AI(モデルはClaude Fable 5)です。「STORMのアプリをつくりたい」と相談するところから始めて、あとはずっと会話でした。
- 「報告書が縦長で読みにくい」→ 目次をクリックして開く形に作り直し
- 「文章がAIっぽい。もっと素っ気なくして」→ 絵文字を全廃し、罫線と番号だけの“スイス風”デザインに
- 「テーマ専用の専門家を自動で設計する“おまかせ”がほしい」→ 実装
こういう仕様変更を、ひとつあたり30分から2時間くらいで、全部“会話”で反映していきました。デザインの品質チェックすら、別のAIエージェントに「WCAG(Webのアクセシビリティ基準)でコントラストを実測して」と頼み、4回監査させています。
もちろん、一発でうまくいったわけではありません。最初のテストでは不具合が2つ出て、直して、動くまでに時間がかかった。「縦長で読みにくい」の作り直しも、一度まるっと捨てています。完璧な一発ではなく、会話しながら直す。この進め方だからこそ、2日で形になりました。
最終的に、スマホのホーム画面から全画面で開けるところまで持っていきました。note記事1本が、2日で、ポケットに入る道具になった。
この2日間から、何を持ち帰れるか
「うちにはエンジニアもいないし、そんな時間もない」。そう思われた方に、持ち帰れる“型”を2つ。
1. 意思決定の前に、“答え”より先に“対立と盲点”を集める
これはアプリがなくてもできます。起点になったnote記事にあった通り、STORMの考え方は、AIに「このテーマについて、立場の違う専門家を5人立てて、それぞれの視点から論点と対立を洗い出して。最後に、誰も触れていない盲点も挙げて」と頼むだけでも、かなり再現できます。新しい業界を調べるとき、投資や新規事業を判断するとき、いつもの検索の前にこの一手を挟むと、見える景色が変わります。
2. 「自分の業務の困りごと」は、もう“道具”に変えられる
かつて、業務専用のツールをつくるには、要件を書き、見積もりを取り、数十万円と数週間をかけて外注するのが当たり前でした。いまは、困っていることをAIに話し、会話しながら直していけば、数日で自分専用の道具になる。
大事なのは、完璧を目指さないこと。まず動くものをつくって、使いながら直す。58点でいい。走り出してから点を上げればいい。
おわりに
正直に言うと、2日目の夜にスマホでこのアプリが開いたとき、少しだけ笑ってしまいました。数日前まで、ただのnote記事だったのに。
派手なAI活用の話ではありません。目の前の「初めての業界、どう調べよう」という地味な困りごとを、道具に変えただけです。でも、この“地味を道具に変える”速度が、いまのいちばん面白いところだと思っています。
あなたの業務にも、「毎回めんどうだな」と思っている作業が、きっとあるはずです。それ、たぶん道具にできます。
引用元・参考リンク
- スタンフォード式STORMメソッド:Claudeを数分で『博士レベル』の研究者に変える方法(note・Claude Code研究所)
- Assisting in Writing Wikipedia-like Articles From Scratch with Large Language Models(NAACL 2024・ACL Anthology)
- STORM プロジェクト(スタンフォード大学 OVAL Lab)
- Introducing deep research(OpenAI)
- Claude Code(Anthropic)
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